核兵器の信頼性

まずは世界的に核兵器保有国と明確に認識されている国とその核爆発実験回数をみてみましょう。()内は大気圏内実験の内数

米国 1032回(215)
ロシア 715回(207)
フランス 210回(50)
英国 45回(21)
中国 45回(23)

これらの5か国については、明確に核爆発とわかる実験(大気圏内爆発実験)時の映像も公開されており、実際に爆発させたことがあることに疑問をさしはさむ余地はないと考えられます。

特に、米ロ2国の実験回数は抜きん出て多いばかりでなく、実際に航空機から投下したり、弾道ミサイルに搭載して発射して爆発させた実績もあります。

3番目に多い英国は45回であり、回数こそ米ロ仏に比べて少ないものの、米国と非常に親密な関係にあることから、データを米国から譲渡されている可能性も考えられ、実験回数に係らず、米ロ仏に劣らないデータを持ち、極めて信頼性の高い核兵器を持っていると考えられるでしょう。

中国については、他の4か国に比べると持っているデータが少なく、その核兵器の信頼性は他の4か国よりは低いものである可能性が考えられます。


この5ヵ国の他には、インドとパキスタンがそれぞれ6回の核爆発実験をしたとされています。いずれも地下で行われたとされ、一見明白に核爆発とわかる映像はありません。
当事者は核爆弾の実験をやったと主張しています。
地表面が変動した映像が公開されたり、第三者による地震波の観測などから、何らかの爆発が起こったことは間違いないでしょう。
ただし、インド・パキスタン双方の実験において、当事者が主張する内容と地震波の観測データの内容に相違があり、実際の回数はもっとすくなく、爆発の規模も主張と異なっている可能性が指摘されています。
本当に核爆発だったのかについて疑義が全くないとはいえず、仮に本当に核爆発だったとしても、実戦で使えるレベルの「兵器」として実用化されているかについては大いに疑義が有ると言えるでしょう。


他に、イスラエルについては憶測がなされています。
実験はしていないが既に保有しているだとか、南アフリカと共同で1回実験を行ったという説などがありますが、判然としていません。
英国同様、米国との関係を考えるとデータを譲渡されている可能性も考えられるでしょうが、憶測の域をでません。


北朝鮮については、北自身は2回やったと主張しています。
しかし、それを信じる人もいれば信じない人もいるというのが実際のところです。
地震波は観測されていますが、爆発規模についての見解は分かれており、大量の爆薬を爆発させただけであり、核爆発ではないと考える人もいます。
いずれにせよ、高い信頼性を持つ実戦使用可能な核兵器の開発に成功している可能性はまずないというのが実際のところでしょう。


このように、一口に「核兵器」や「核実験」といっても、その信頼性や内容は様々であり、国によって非常に大きな開きがあるということです。
核兵器に関して、何か考える場合にはこれをよく考慮に入れる必要があるでしょう。

弾道ミサイルの射程と信頼性

弾道ミサイルの問題について考える場合に押さえておくべき点についてみてみましょう。

弾道ミサイルはその射程によりおおまかに、
ICBM 大陸間弾道ミサイル  射程5,500km以上
IRBM 中距離弾道ミサイル  射程2,400km以上5,500km未満
MRBM 準中距離弾道ミサイル 射程800km以上2,400km未満
SRBM 短距離弾道ミサイル  射程800km未満
というような分類がされています。

ICBMは米ロ両国の本土間の距離以上の射程を持つ弾道ミサイルであり、一般に核弾頭を装備し、戦略兵器と呼ばれます。
IRBMはそこまでの射程は持たず、パリやロンドンあたりからモスクワあたりまでの距離2,500km程度以上・ICBM未満の射程を持つ弾道ミサイルです。
800kmというと大体東京から札幌または広島あたりの距離です。つまりMRBMとは、ヨーロッパの多くの国にあてはめると、隣国のほぼ全土に届く距離からIRBM未満の射程の弾道ミサイルと言うことができるでしょう。
SRBMはそのMRBM未満の射程の弾道ミサイルというわけです。

このように、弾道ミサイルは主に米ソ冷戦時代の軍事的な視点から分類されていることがわかります。
冷戦後もこの分類が変更されていないということは、有力な弾道ミサイル戦力を持った国々の内容に重大な変化は生じていないことを暗に示していると言えるでしょう。


近年、日本では北朝鮮弾道ミサイルに対する関心が高まってきているようです。
北が配備しているとされる弾道ミサイルには、
スカッドB 射程300km
スカッドC 射程500km
ノドン   射程1,300km
などがあるとされています。

スカッドBとスカッドCは、旧ソ連が戦時中のドイツのV2ロケットと呼ばれる弾道ミサイルをもとに開発した弾道ミサイルとされており、北の領内から実射が行われたりもしています。
ノドンについては、どうでしょうか。
このミサイルは、スカッドをもとに、北が独自に開発したとされています。
日本海に向けての実射は行われたことがあるとされています。ただし、発射された地点から着弾(落下)した地点までの距離は500km程度です。実際に飛んだ水平距離は500km。
では、なぜ、射程が1,300kmといわれているのか。

実射の模様を観測した米軍のデータによると、実射にあたりノドンは本来の角度よりも垂直に近い角度で発射され、本来よりも高く上昇し、そのかわり本来よりも発射地点の近くに落下させるという飛ばし方をしたとされています。つまり、実際に飛んだ水平距離は500kmだったが、本来のように45度に近い角度で上昇させれば、1,300km位離れた場所に落下したはずだ、ということです。
この話を正しいと信じれば、ノドンは射程1,300kmの弾道ミサイルであるといえるでしょう。

しかし、実際に飛んだのは500kmだという事実があり、それ以上ではないので、ノドンの射程は本当は1,300kmよりも短いのではないか、という判断もできるわけです。

いずれにせよ、北が実際に1,300km飛ばした実績はないようです。
また、北はこれをパキスタンやイラン等に供与し、そこでも実射が行われているようですが、実際に1,300km飛んだという事実はないようです。

次に、弾道ミサイルの信頼性という面を考えて見ましょう。
米国やソ連(ロシア)は、今までに実に多くの種類・各種タイプの弾道ミサイルを開発し、配備してきました。
それらの開発の過程では、一つ一つのモデル(型式)のミサイルを開発するにあたり、それぞれ数十回程度の実射(射程3,000kmのミサイルならば、実際に3,000km飛ばしたり)を行い、各種のテストを入念に行って、充分に性能や信頼性を検証し、問題点を解決して完成させ、それから配備をするというやり方を行ってきています。

また、実際に配備をした後も、毎年数発程度は実際に発射テストをやってみて、きちんと所期の性能を発揮するかどうかのチェックもやっています。


それに対し、北朝鮮パキスタン、イランなどの国々における弾道ミサイル開発はそのような入念な実験は行っていません。せいぜい数回実射して、それでよしとして配備を行っているわけです。
主に資金的な余裕がないために、そうせざるを得ないのでしょう。

これらのことを踏まえてみますと、同じ弾道ミサイルといっても、米ロ両国のそれと、第3世界の国々の開発したそれとでは、信頼性に雲泥以上の差があることは明白でしょう。

北朝鮮弾道ミサイルや、イランなどの弾道ミサイルについて考える場合には、これを念頭において思考することが大事だと思われます。

航空母艦(空母)

航空母艦(空母)とは、何か。
要するに航空機を恒常的に運用する目的でそれに必要な機能を持つ艦艇のことです。
細かな部分についていえば、一元的な定義はなく、かなり曖昧な使われ方をしているのが実際です。


その形状の特色として、一般的な艦艇・船舶と形状が大きく異なり、航空機を発着艦させるために平らな広い甲板を持っています。

その「形状のイメージ」から、空母ではないのにしばしば空母と間違われる艦艇もあります。


1998年に就役した「おおすみ」という輸送艦がありますが、これなども空母と誤認されることも皆無ではありませんでした。(一見、空母のような形態をしている為。)
この艦は「ドック型揚陸艦」というカテゴリーの艦艇で、船体が浮きドックのようになっていて、中に搭載する揚陸艇(エアクッション艇)で主に車両や物資を港湾設備のない海岸に陸揚げするためのものです。
同時に、平たい甲板からヘリコプターを使って、人員や物資を陸揚げする機能も持っています。
ただし、固有の搭載ヘリは持たず、艦内にヘリを収容することもできず(分解すれば話は別)、ヘリを整備する機能もありません。つまり、航空機を恒常的に運用する能力は全くありません。形が空母みたいであっても、その機能からして全然空母ではありません。


形状が空母似で空母ではない艦艇に「強襲揚陸艦」というのがあります。
これも港湾設備のない海岸に物資・人員を陸揚げするための艦艇です。
固有の航空機を持ち、それを整備する能力もあります。
攻撃ヘリコプターや垂直離着陸戦闘機を搭載・運用し、自艦だけである程度、陸揚げを妨害する敵を制圧する能力も持っています。
しかし、あくまでもその機能は人員・物資の陸揚げであり、航空機(航空戦力)の運用が目的である艦艇=空母ではありません。


俗にヘリ空母と呼ばれる艦艇もあります。
固有のヘリコプターを搭載し、ヘリの整備能力もあります。
これは一応、空母というカテゴリーに入れても間違いとはいえないでしょう。



しかし、一般に「航空母艦」「空母」と言った場合、多くの人がイメージするのは、その機能からして、固定翼航空機を多数搭載し、それなりの航空戦力を発揮できる艦艇ではないでしょうか。
では、そのような「機能のイメージ」に合致した艦艇は、どこの国の海軍が持つ、どのような艦艇でしょうか。


ベトナム戦争終結後の1973年、「ミッドウェイ」という米国海軍の空母が実質的に横須賀を母港として以来、日本人には同艦やその後に同艦の後継として横須賀を母港とした「インディペンデンス」「キティホーク」「ジュージワシントン」などの本格的な空母が「空母」という語に対するイメージとして定着していると言えるでしょう。


このことから、気をつけるべきことは、一般に「空母」と呼ばれる各国の艦艇は、その全てが、多くの日本人が空母と聞いてイメージする米国の本格空母と同じではないということです。
実際には同じではないどころの話ではありません。

米国海軍が持つ本格空母と同等の戦力をもつ空母は、米国以外には全く存在しません。

これをしっかり理解しないと、「ロシアの空母」とか「フランスの空母」とか「インドの空母」と聞いたときに、その価値判断・意味合いの理解に大きな間違いを犯すことになります。


空母の能力を考える場合、ポイントは搭載している航空機(艦載機)の能力と数です。
また、艦載機の能力といった場合、その艦載機が実際にその空母から運用された場合の能力(搭載するミサイルや爆弾の性能・搭載できる量やその状態で飛んでいける距離など)が大事です。


米国の本格空母の場合、大雑把にいうと、
戦闘機(戦闘機同士の空中戦や他国の爆撃機攻撃機などを撃破する能力を有する)2ダース
攻撃機(艦艇や地上を攻撃する能力を有する)2ダース
電子戦機(相手のレーダーを妨害したりする)数機
早期警戒機(相手の航空機をレーダーで監視する)数機
対潜ヘリ(相手の潜水艦を探して攻撃する)1ダース
くらいを搭載し運用できます。
攻撃的な能力を発揮できる航空機を4ダースも積んでいます。
それらを支援する機種も充分積んでいます。


フランスの空母はどうでしょうか。
戦闘機1ダース
攻撃機(米国の攻撃機よりずっと能力が劣る)2ダース弱
早期警戒機数機
米国空母より格段に劣ります。


ロシアの空母はどうでしょうか。
戦闘機2ダース弱
攻撃機(米国の攻撃機よりずっと能力が劣る)数機
対潜へり1ダース強
これも米国空母より格段に劣ります。

しかも、ロシアの空母は米国やフランスの空母と違い、艦載機を発艦(発進)させるのに重要な意味をもつカタパルトという装置を持たないため、戦闘機は武装や燃料をフルに積んだ状態では運用できないというものです。

また、ロシアの空母は敵の艦艇を攻撃するための大型の対艦ミサイルを1ダース積んでいます。これは、普通は空母以外の艦艇が装備するものです。
これを積んでいるためにロシアの空母は、その大きさの割りに艦載機の数と能力が小さくなっているようです。
空母としての能力を追求するという観点からは、マイナスなつくりになっています。
このことから、ロシアの空母は空母というよりもむしろ半空母と呼ぶべきでしょう。
(ロシア自身は、そもそも空母と呼んではいないようです。)


それ以外の国々の空母は、フランスやロシアの空母と比べても同等以下の能力しかありません。


つまり、我々日本人が「空母」と聞いてイメージするものは米海軍の空母だけであるということです。
米海軍の空母であれば、単独または2,3隻でもって、先進国レベルの軍事力の国を相手に一定の戦力を発揮し、一定の軍事的攻撃を行い得るでしょう。
(しかも、米海軍はそのような空母を1ダースも運用している。)

それに対し、それ以外の国の空母は、とても先進国レベルの軍事力を相手にしたら、ほとんど戦力発揮などできないでしょう。
戦闘状況下では、自分自身を守るので精一杯、とても攻撃などできないというのがせいぜいでしょう。
(しかも、米国以外はそのような弱小空母を持っている国でも1国で1,2隻しか運用していません。)
米国以外の国の空母は、第3世界の軍事的虚弱国に対してしか使えないというのが実際のところです。


この辺をしっかり理解したうえで、各国の「空母」の話題が出たときには、軍事や外交に対して的確な判断をしていきたいものです。

北方領土問題

所謂北方領土問題を外交面だけでなく、軍事的な視点を交えて考えてみましょう。

まず、第二次世界大戦後の全世界のほぼ全ての国境線は、第二次世界大戦の結果として決まったものであるということ。
それが確定されること及び一度確定されたそれが変更されるには、第二次世界大戦における主要な連合国の同意・合意が必要であること。
この2点をしっかりと踏まえないことには、領土・国境線に関しては実効性のある議論も案も出てはこないでしょう。

日本と日本の近隣国との国境線は、日本が同意しようがしまいが、主要な連合国が一致してここだと決めてしまったら、日本の意思ではどうにもならないというのが現実です。

1938年にミュンヘン会談というのがありました。
会談したのは、イギリス、フランス、イタリア、ドイツ。
会談により、チェコスロバキアとドイツとの間の国境線は変更されました。
この時、チェコスロバキアの意思は何ら斟酌されていません。

大国(主要国)の意思の前には小国(非主要国)の意思は無視される・若しくは初めから問題にもされない。
今も昔も、これが国際社会の現実です。

第二次世界大戦の敗戦国たる日本の領域(国境線)は、連合国の主要な国々の意思により決められた。

終戦直後から講和条約調印までの間、主要な国々の意思が一致していれば、今日の北方領土問題などはなかったでしょう。今日の北方領土問題が出てきたのは、米ソ両国という連合国の主要国の間に、日本とソ連との国境線をどこにするかについて、意思の相違があったことによります。

ここで、経緯を復習してみましょう。
第二次世界大戦開戦時(1939年9月)時点、及び日本の参戦時(1941年12月)時点における日ソ間の国境は、樺太においては南樺太(日本)と北樺太ソ連)の境界(北緯50度)、千島列島においては占守島(日本)とカムチャツカ半島ソ連)との間でした。

第二次世界大戦中、日ソ間はずっと互いに交戦状態にはありませんでしたが、1945年8月9日にソ連が対日宣戦布告して、交戦状態となりました。
1945年8月11日よりソ連軍は南樺太に侵攻。8月18日からは占守島に侵攻し、8月28日から9月2日までに択捉島国後島色丹島の占領を完了。9月3日から9月5日で歯舞群島を占領しました。(詳細は諸説あり)

第二次世界大戦の最中、1945年2月に連合国の主要3国(米ソ英)が話し合い、戦後の日ソ間の領域が合意されました(ヤルタ協定)。
日ソ間の領域に関係する内容としては、「南樺太ソ連への返還」と「千島列島のソ連への引渡し」。

1945年8月から9月にかけての南樺太・千島列島への侵攻と占領は、ソ連が一国で勝手にやった行動ではなく、米英という連合国の主要国の同意のもとで行われたわけです。

1946年1月、連合軍司令部が日本の行政区域を示す命令を発し、千島列島・色丹島歯舞群島は日本の行政区域の域外とされました。
この時点では、米国も千島全島と色丹島歯舞群島ソ連領となることに同意していたことがわかります。

1951年、サンフランシスコ講和条約が締結され、同条約2条C項により、南樺太と千島列島の全ての権利、権原および請求権を日本国は放棄する、となりました。
条文中に千島列島が具体的にどの範囲であるかは記されていません。

当時、米国代表は「歯舞群島は千島に含まれないというのが米国の見解」と述べています。
逆に言うと、択捉島国後島はもとより、色丹島も千島列島の一部という見解であったということです。

日本代表は、「日本の本土たる北海道の一部を構成する色丹島及び歯舞諸島」という表現で色丹島歯舞群島は千島の一部ではないという見解を示しています。
択捉島国後島については「千島南部の二島」の表現をしているため、この時点で日本は択捉島国後島は放棄した(させられた)という認識だったということです。

つまり、1951年当時、日米2国とも国後島択捉島は日本が放棄、歯舞群島は日本領という認識で一致しており、色丹島については日米2国間で見解が分かれていたということです。

1956年、日ソ共同宣言調印。
この中で、平和条約締結後、色丹島歯舞群島ソ連は日本に引き渡すとされています。
当時、日本は色丹島歯舞群島を返還させ、国後島択捉島は断念して平和条約調印の腹を固めていましたが、米国が国後島択捉島の返還要求をしないならば、沖縄の返還はしないと言ってきたため、平和条約をあきらめ、共同宣言という形にしたと言われています。
このとき、米国は、日ソ間の国境は日ソ2国間の合意のみで決められるものではなく、連合国の同意で決められるものであるという意思表示もしていたようです。

その後、日本は米国の意向を受け、択捉島国後島色丹島歯舞群島の4島返還をソ連・ロシアに要求し続けているわけです。


では、北方領土問題は、今後どう扱ってゆけばよいのでしょうか。
米ソ間の冷戦が継続している間は、解決の可能性はなかったでしょう。
米ソ両国とも譲歩する気はなかったでしょうから。
しかし、冷戦終結後は、可能性がでてきていた(いる)と考えられます。

既述したように、この問題は日露二国間の合意だけで解決できる問題ではありません。
日露二国間の合意だけで解決可能ならば、日本が択捉島国後島への要求を取り下げ、日ソ共同宣言の内容にそって色丹島歯舞群島の返還で平和条約を調印すれば終わりです。

しかし、米国の同意がなければ解決はできない。
過去の経緯から、米国が今更色丹島歯舞群島の返還だけで手をうってよいというとは考えにくいでしょう。
日本自身も、今更色丹島歯舞群島だけで解決というわけにはいかないでしょう。

ロシアが択捉島国後島までも返還するかというと、それもないと考えられます。

では、日米露3国が合意できる解決策はあるのか。

国後島を地図でみると明白ですが、知床半島根室半島に挟まれた位置にあります。
距離も最短地点で16km。榴弾砲の射程内です。
日本が武力による奪還を企図した場合、ロシア側は防御に苦慮しそうです。
地形も太平洋側は比較的平坦で港湾もあり、補給・増援が容易ですが、オホーツク海側(即ちロシア本土・樺太側)は急峻な地形で補給や増援が困難です。
色丹島歯舞群島が日本に返還された場合は、ロシア側から見てさらに国後島の防衛は頭痛の種になるでしょう。

また、平時における領域警備(国境警備)においても、色丹島歯舞群島の返還後はもとより、現状でも中間線の形状が複雑で長く、警備は面倒でしょう。

色丹島歯舞群島に加え、国後島も日本領となり、択捉島以北がロシア領となった場合のほうがロシア側からみても防衛や警備が楽になることが考えられます。
返還後、これらの島に米軍基地は作らず、日本も重装備は配備しないなどの約束をすれば、ロシアにとってメリットがあると認識させることは不可能ではないのではと考えられます。
(少なくとも、デメリットだけではないという事実の提示ができます。)

米国にとっても、太平洋からオホーツク海へのアクセスが根室海峡(海路)と国後島上空に広がるメリットがあり、色丹島歯舞群島だけの返還よりは同意しやすいと思われます。

もし、米国が太平洋からオホーツク海への海路のアクセスルートの拡大に拘るならば、国後水道(国後島択捉島の間の海)を完全に日本の領域にすることに固執するかもしれません。(国後島が日本領、択捉島がロシア領でも国後水道の中間線までは日本の支配下にできるのでアクセスはできますが。)
国後水道は、根室海峡よりも格段に水深が深く大型艦や潜水艦を通すにはここを支配したくなります。

その場合は、択捉島の国後水道に面した一部を日本領とすることで実現できそうです。

これは、2006年に麻生外相(当時)が私案として表明したもの(面積2等分案・所謂3.5島案)と合致します。
日本国内的には、名目は(所謂)4島が返還されたと言えるし、ロシア側も日本の要求を半分に譲歩させたと言える案でしょう。

このように、「北方領土問題を解決する」という視点にたてば、日本は米露両国と自国民を(所謂)3.5島案で説得するか、あるいは(所謂)3島案で解決を目指すかのいずれかの選択肢の実現に向けて動くべきと考えられるでしょう。

2011年1月からのエジプト情勢

米国のオバマ大統領は、エジプトのイスラム原理主義組織「ムスリム同胞団」について、その「反米的思想」に警戒感を示しているとされる一方、ムスリム同胞団が加わったエジプト政府と野党勢力の対話を支持するという、方向性としては矛盾する態度をとっていますね。
ムスリム同胞団を排除しろとは言っていない。
ということは、新政権にムスリム同胞団が入ることを是認するということでしょう。

また、ムスリム同胞団は「勢力の一つ」だが「過半数の支持を得てはいない」と述べ、反米イスラム勢力が次期政権を支配することはないとの考えを示したそうですが。
仮に本当にムスリム同胞団がエジプト国民の過半数の支持を得てはおらず、議会で過半数を取れなければ問題ないと考えているのでしょうか。

新政権ができた後、自由で公正な民主主義的な選挙が定期的に行われる保障はどこにもないでしょう。
政権内の少数派が様々な手段を用いて権力を掌握し、その後はその勢力が実質的にその国を支配してしまうという事例は、先進国以外では普通にみられることです。

初めは少数派で影響力は限定的と米国大統領が考えるムスリム同胞団が、やがてエジプトを支配し、エジプトはイスラム原理主義の国になってしまっていた、というリスクは当然想定されるでしょう。

それを米国大統領たるものが理解していないとは考えにくい。
米国オバマ大統領は、そうなることを何らかの理由で容認しようということなのかと考えられます。

将来的に、エジプトが第二のイランとなり、オバマ大統領は第二のカーター大統領と呼ばれる日が来ることも想定しておいたほうがよいように思えます。

潜在的軍事力

普通、軍事力(防衛力)といった場合、今現在の装備(航空機・艦艇・戦車など)の数とそれらの性能や兵力の多寡などからその大小(強弱)が判断されます。

それに対して、潜在的軍事力という概念があります。

科学的・工業的な技術水準が高いのか低いのか。
それが高ければ、将来的にその国が意思決定さえすれば、現在のその国が実際には保有していない、より高性能な装備を保有する物理的な可能性は高いと考えられます。
あるいは、現在その国が実際には保有していない分野の装備(長距離ミサイル・長距離航空機・NBC兵器など)を保有するようになる可能性も考えられるわけです。

工業生産力が高く、同時に経済力もあるならば、同様に将来的にその国が意思決定さえすれば、現在のその国が実際に保有しているよりも遥かに多数の装備を保有する可能性が考えられます。

兵役適齢人口が充分に多ければ、同様に将来的にその国が意思決定さえすれば、現在のその国が実際に保有しているよりも遥かに多数の兵力を保有する可能性が考えられます。

また、人材という面も無視できません。

一般に、教育水準の高い国民の多い国ならば、より短期間に・より多数の・高度な装備を操作できる兵員を訓練して作り上げることが可能です。

その国の国民の中に航空機を操縦できる人材がどのくらいいるか。
それによりその国の航空戦力の潜在的な能力が変わってきます。

自動車を操縦することのできる国民の比率はどのくらいか。
それにより、いざというときに戦車などを含む車両部隊を増備する能力に違いが生じます。

同様に、コンピュータを扱える人材の数はどうか。
民間企業等に就職するのに有利とされるような特殊な技能をもった人材の多寡も重要です。

これらは、技能を要する兵員を教育・訓練するのに必要な期間とコストに大きく影響するのです。

日本を含む先進工業国が本格的な武力紛争の当事者となるような事態がくるとすれば、それは何の前触れもなく突然にそうなるとは非常に考えにくいものがあります。
そういう事態になるとすれば数年(以上)前から、国家間の利害対立の表面化・先鋭化などから、そうなるであろうことは予測できると考えられます。
従って、平時における各国の軍事力に着目するだけではなく、個々の国の潜在的軍事力というものを常に念頭において考えることが大事といえるでしょう。

平時体制と戦時体制

日本の継戦能力の問題として、しばしば弾薬備蓄量の少なさが話題になります。
自衛隊の全部隊が一斉に発砲・発射すると弾丸・弾薬・ミサイルは数時間でなくなるとか(まあ、実戦ではありえない想定ですが)、数日しか闘えないとか。

あるいは、特定の装備の保有数の少なさが問題にされたりもします。
ある程度の数を揃えないと充分に戦力発揮できない種類の装備が少なすぎるとか。

これらは、平時体制と戦時体制との違いという視点から眺めれば特段問題ではないことが理解できるでしょう。

当然ながら、今現在の日本は本格的武力紛争の当事者ではありません。
また、2,3年以内の短期間内にそうなる可能性は極めて低いと考えられます。

もし、将来的に日本が本格的・大規模武力紛争の当事者になってしまう事態が発生するとすれば、それはある日突然・何の前触れもなくそうなるとは非常に考えにくいものです。
日本に直接関係する大規模武力紛争が発生するとすれば、少なくともその数年以上前から国際情勢・国内情勢に大きな変化が生起し、それを予見することが可能であろうと考えられます。
予見できる状態になった時点で、日本は平時体制から戦時体制(また準戦時体制)に移行すればよいわけです。

日本は、世界有数の工業生産力・技術力を保持しています。
国家レベルでひとたび戦時体制(また準戦時体制)への移行を決断すれば、かなりの短期間で弾薬類の大量生産も装備の大量調達も可能でありましょう。
平時においては、弾薬や装備品を生産していない企業・工場であっても、いざとなればそれらの生産を行うことは可能です。

平時体制である時に、弾薬備蓄量や一部の装備の数の不足を心配する必要はありません。
備蓄しておいても、一定年限で廃棄しなければならない弾薬類を平時において過剰に保持し続けることは無駄です。
装備にしても、一定の年限で旧式化・陳腐化するものですから、それを平時に大量に装備しておくことは予算の無駄です。
むしろ、(実際に行われているように)一定の予算内で比較的高度・高価格な装備を少数でも保有しておくことは、それらを生産する能力、運用する能力を保持・向上させるために有意義なことです。
防衛の問題を考える場合、一点にだけ着目するのではなく、こうした総合的な視点から考えることが必要でしょう。