弾道ミサイルの射程と信頼性

弾道ミサイルの問題について考える場合に押さえておくべき点についてみてみましょう。

弾道ミサイルはその射程によりおおまかに、
ICBM 大陸間弾道ミサイル  射程5,500km以上
IRBM 中距離弾道ミサイル  射程2,400km以上5,500km未満
MRBM 準中距離弾道ミサイル 射程800km以上2,400km未満
SRBM 短距離弾道ミサイル  射程800km未満
というような分類がされています。

ICBMは米ロ両国の本土間の距離以上の射程を持つ弾道ミサイルであり、一般に核弾頭を装備し、戦略兵器と呼ばれます。
IRBMはそこまでの射程は持たず、パリやロンドンあたりからモスクワあたりまでの距離2,500km程度以上・ICBM未満の射程を持つ弾道ミサイルです。
800kmというと大体東京から札幌または広島あたりの距離です。つまりMRBMとは、ヨーロッパの多くの国にあてはめると、隣国のほぼ全土に届く距離からIRBM未満の射程の弾道ミサイルと言うことができるでしょう。
SRBMはそのMRBM未満の射程の弾道ミサイルというわけです。

このように、弾道ミサイルは主に米ソ冷戦時代の軍事的な視点から分類されていることがわかります。
冷戦後もこの分類が変更されていないということは、有力な弾道ミサイル戦力を持った国々の内容に重大な変化は生じていないことを暗に示していると言えるでしょう。


近年、日本では北朝鮮弾道ミサイルに対する関心が高まってきているようです。
北が配備しているとされる弾道ミサイルには、
スカッドB 射程300km
スカッドC 射程500km
ノドン   射程1,300km
などがあるとされています。

スカッドBとスカッドCは、旧ソ連が戦時中のドイツのV2ロケットと呼ばれる弾道ミサイルをもとに開発した弾道ミサイルとされており、北の領内から実射が行われたりもしています。
ノドンについては、どうでしょうか。
このミサイルは、スカッドをもとに、北が独自に開発したとされています。
日本海に向けての実射は行われたことがあるとされています。ただし、発射された地点から着弾(落下)した地点までの距離は500km程度です。実際に飛んだ水平距離は500km。
では、なぜ、射程が1,300kmといわれているのか。

実射の模様を観測した米軍のデータによると、実射にあたりノドンは本来の角度よりも垂直に近い角度で発射され、本来よりも高く上昇し、そのかわり本来よりも発射地点の近くに落下させるという飛ばし方をしたとされています。つまり、実際に飛んだ水平距離は500kmだったが、本来のように45度に近い角度で上昇させれば、1,300km位離れた場所に落下したはずだ、ということです。
この話を正しいと信じれば、ノドンは射程1,300kmの弾道ミサイルであるといえるでしょう。

しかし、実際に飛んだのは500kmだという事実があり、それ以上ではないので、ノドンの射程は本当は1,300kmよりも短いのではないか、という判断もできるわけです。

いずれにせよ、北が実際に1,300km飛ばした実績はないようです。
また、北はこれをパキスタンやイラン等に供与し、そこでも実射が行われているようですが、実際に1,300km飛んだという事実はないようです。

次に、弾道ミサイルの信頼性という面を考えて見ましょう。
米国やソ連(ロシア)は、今までに実に多くの種類・各種タイプの弾道ミサイルを開発し、配備してきました。
それらの開発の過程では、一つ一つのモデル(型式)のミサイルを開発するにあたり、それぞれ数十回程度の実射(射程3,000kmのミサイルならば、実際に3,000km飛ばしたり)を行い、各種のテストを入念に行って、充分に性能や信頼性を検証し、問題点を解決して完成させ、それから配備をするというやり方を行ってきています。

また、実際に配備をした後も、毎年数発程度は実際に発射テストをやってみて、きちんと所期の性能を発揮するかどうかのチェックもやっています。


それに対し、北朝鮮パキスタン、イランなどの国々における弾道ミサイル開発はそのような入念な実験は行っていません。せいぜい数回実射して、それでよしとして配備を行っているわけです。
主に資金的な余裕がないために、そうせざるを得ないのでしょう。

これらのことを踏まえてみますと、同じ弾道ミサイルといっても、米ロ両国のそれと、第3世界の国々の開発したそれとでは、信頼性に雲泥以上の差があることは明白でしょう。

北朝鮮弾道ミサイルや、イランなどの弾道ミサイルについて考える場合には、これを念頭において思考することが大事だと思われます。