航空母艦(空母)

航空母艦(空母)とは、何か。
要するに航空機を恒常的に運用する目的でそれに必要な機能を持つ艦艇のことです。
細かな部分についていえば、一元的な定義はなく、かなり曖昧な使われ方をしているのが実際です。


その形状の特色として、一般的な艦艇・船舶と形状が大きく異なり、航空機を発着艦させるために平らな広い甲板を持っています。

その「形状のイメージ」から、空母ではないのにしばしば空母と間違われる艦艇もあります。


1998年に就役した「おおすみ」という輸送艦がありますが、これなども空母と誤認されることも皆無ではありませんでした。(一見、空母のような形態をしている為。)
この艦は「ドック型揚陸艦」というカテゴリーの艦艇で、船体が浮きドックのようになっていて、中に搭載する揚陸艇(エアクッション艇)で主に車両や物資を港湾設備のない海岸に陸揚げするためのものです。
同時に、平たい甲板からヘリコプターを使って、人員や物資を陸揚げする機能も持っています。
ただし、固有の搭載ヘリは持たず、艦内にヘリを収容することもできず(分解すれば話は別)、ヘリを整備する機能もありません。つまり、航空機を恒常的に運用する能力は全くありません。形が空母みたいであっても、その機能からして全然空母ではありません。


形状が空母似で空母ではない艦艇に「強襲揚陸艦」というのがあります。
これも港湾設備のない海岸に物資・人員を陸揚げするための艦艇です。
固有の航空機を持ち、それを整備する能力もあります。
攻撃ヘリコプターや垂直離着陸戦闘機を搭載・運用し、自艦だけである程度、陸揚げを妨害する敵を制圧する能力も持っています。
しかし、あくまでもその機能は人員・物資の陸揚げであり、航空機(航空戦力)の運用が目的である艦艇=空母ではありません。


俗にヘリ空母と呼ばれる艦艇もあります。
固有のヘリコプターを搭載し、ヘリの整備能力もあります。
これは一応、空母というカテゴリーに入れても間違いとはいえないでしょう。



しかし、一般に「航空母艦」「空母」と言った場合、多くの人がイメージするのは、その機能からして、固定翼航空機を多数搭載し、それなりの航空戦力を発揮できる艦艇ではないでしょうか。
では、そのような「機能のイメージ」に合致した艦艇は、どこの国の海軍が持つ、どのような艦艇でしょうか。


ベトナム戦争終結後の1973年、「ミッドウェイ」という米国海軍の空母が実質的に横須賀を母港として以来、日本人には同艦やその後に同艦の後継として横須賀を母港とした「インディペンデンス」「キティホーク」「ジュージワシントン」などの本格的な空母が「空母」という語に対するイメージとして定着していると言えるでしょう。


このことから、気をつけるべきことは、一般に「空母」と呼ばれる各国の艦艇は、その全てが、多くの日本人が空母と聞いてイメージする米国の本格空母と同じではないということです。
実際には同じではないどころの話ではありません。

米国海軍が持つ本格空母と同等の戦力をもつ空母は、米国以外には全く存在しません。

これをしっかり理解しないと、「ロシアの空母」とか「フランスの空母」とか「インドの空母」と聞いたときに、その価値判断・意味合いの理解に大きな間違いを犯すことになります。


空母の能力を考える場合、ポイントは搭載している航空機(艦載機)の能力と数です。
また、艦載機の能力といった場合、その艦載機が実際にその空母から運用された場合の能力(搭載するミサイルや爆弾の性能・搭載できる量やその状態で飛んでいける距離など)が大事です。


米国の本格空母の場合、大雑把にいうと、
戦闘機(戦闘機同士の空中戦や他国の爆撃機攻撃機などを撃破する能力を有する)2ダース
攻撃機(艦艇や地上を攻撃する能力を有する)2ダース
電子戦機(相手のレーダーを妨害したりする)数機
早期警戒機(相手の航空機をレーダーで監視する)数機
対潜ヘリ(相手の潜水艦を探して攻撃する)1ダース
くらいを搭載し運用できます。
攻撃的な能力を発揮できる航空機を4ダースも積んでいます。
それらを支援する機種も充分積んでいます。


フランスの空母はどうでしょうか。
戦闘機1ダース
攻撃機(米国の攻撃機よりずっと能力が劣る)2ダース弱
早期警戒機数機
米国空母より格段に劣ります。


ロシアの空母はどうでしょうか。
戦闘機2ダース弱
攻撃機(米国の攻撃機よりずっと能力が劣る)数機
対潜へり1ダース強
これも米国空母より格段に劣ります。

しかも、ロシアの空母は米国やフランスの空母と違い、艦載機を発艦(発進)させるのに重要な意味をもつカタパルトという装置を持たないため、戦闘機は武装や燃料をフルに積んだ状態では運用できないというものです。

また、ロシアの空母は敵の艦艇を攻撃するための大型の対艦ミサイルを1ダース積んでいます。これは、普通は空母以外の艦艇が装備するものです。
これを積んでいるためにロシアの空母は、その大きさの割りに艦載機の数と能力が小さくなっているようです。
空母としての能力を追求するという観点からは、マイナスなつくりになっています。
このことから、ロシアの空母は空母というよりもむしろ半空母と呼ぶべきでしょう。
(ロシア自身は、そもそも空母と呼んではいないようです。)


それ以外の国々の空母は、フランスやロシアの空母と比べても同等以下の能力しかありません。


つまり、我々日本人が「空母」と聞いてイメージするものは米海軍の空母だけであるということです。
米海軍の空母であれば、単独または2,3隻でもって、先進国レベルの軍事力の国を相手に一定の戦力を発揮し、一定の軍事的攻撃を行い得るでしょう。
(しかも、米海軍はそのような空母を1ダースも運用している。)

それに対し、それ以外の国の空母は、とても先進国レベルの軍事力を相手にしたら、ほとんど戦力発揮などできないでしょう。
戦闘状況下では、自分自身を守るので精一杯、とても攻撃などできないというのがせいぜいでしょう。
(しかも、米国以外はそのような弱小空母を持っている国でも1国で1,2隻しか運用していません。)
米国以外の国の空母は、第3世界の軍事的虚弱国に対してしか使えないというのが実際のところです。


この辺をしっかり理解したうえで、各国の「空母」の話題が出たときには、軍事や外交に対して的確な判断をしていきたいものです。