日米安全保障条約−日米不戦条約

かつて、この条約の改定をめぐり日本国内で大きな意見対立があったりしたこともあり、この条約をめぐっては多くの議論があり、一般の認知度の高い条約です。
しかしながら、議論の中でも一般の認知の中でも、この条約の中核的な意味合いの理解というものは皆無といっても過言ではないでしょう。

日米安全保障条約日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約)とは日米不戦条約である。

この理解を踏まえないことには、全ての議論はそのスタート時点で誤った内容になる可能性が高いと思われます。

安保廃棄を主張する人々は、日本が廃棄の意思表示をすれば米国は無条件で黙ってそれに応じるという前提で議論を進めているようです。
確かに、条文的には一方が他方に廃棄(終了)を通告すれば、その後1年で条約は終了するとなっています。

では、それにより条約の効力が終了すれば(終了するまでには)、現に日本国内に存在する米国の部隊は日本の領域外に出て行くのか。
それはハッキリ言って、その時の米国の意思次第でしょう。

米国が、日本国内の基地を使用し、日本国内に部隊を置き続けたいと考えたら、居座ることもありえるでしょう。少なくともその可能性は排除できない以上、そうなった場合のことも考えなければ安保廃棄の主張は意味がないものとなります。

居座る米国部隊の存在を黙認するのか。
その場合は、日本は米国に占領された国ということになります。何ら米国部隊の駐留を裏付ける条約等が存在しないにもかかわらず、外国軍部隊が存在するのですからね。条約やそれに付随する協定等の縛りのない外国軍が国内に存在することになります。

それが嫌なら、実力で米国の部隊を国外に排除するということになります。
その場合は、当然に日本と米国との間の武力紛争状態となる可能性が極めて高いと考えられます。

一方、条約の廃棄(終了)の通告をしても、そのような展開とならず、円満に安保廃棄・米国部隊の撤退が実現すれば、それで万事解決となるのでしょうか。

安保条約がなくなれば(且つそれに変わる何らかの日米間の条約等が結ばれなければ)、日米間は(軍事的・外交的には)互いに何ら義務を負わない関係となります。
そうなった暁には、以後日米間で何らかの問題が発生し、その対立が極度に先鋭化した場合、日本は米国による軍事攻撃を受ける可能性がでてくるということになります。
また、日本はどんな問題についても対米交渉の場面では、その可能性も念頭において対応することになるというのもあります。

もう一つの側面。
かつて東西冷戦がたけなわの頃、安保を廃棄すれば日本にソ連が攻めてくるという議論がありました。しかし、安保廃棄後、米国が日本を占領する可能性ということに思い至る人は安保反対派にもそうではない人にもほとんど皆無だったのです。
仮に日米間に何ら対立が存在しなくても、米国にとっての敵国(潜在敵国)が日本を占領したり、日本に基地を獲得したりする事態が想定されれば、それを阻止するために米国が先手を打って日本を占領したり、あるいは港湾や空港等を破壊したりする可能性は当然に考えられることであるにもかかわらず。
日本が日米安保を解消し、米国の部隊を撤収させておきながら充分な防衛力を持たず、いざとなれば簡単に外国の侵攻をうけるような状況であれば、米国は日本を予防的に占領する選択をせざるを得ない状況というのも考えられるわけです。

このように、安保廃棄という選択を実行する場合、廃棄の具体的プロセスの検討が必要であり、廃棄後の対米防衛の検討も必要となるのです。
これは、対米関係の良否にも、日本が中立的な政策をとるか否かにも関係なく、厳として存在する問題です。

安保廃棄を主張する人々に、これをきちんと考えている人は、いないのではないでしょうか。また、安保廃棄を主張していない人も、こういう部分をしっかり認識している人は結構少ないように見受けられます。